東京地方裁判所 昭和37年(ワ)10537号 判決 1964年8月06日
原告
株式会社築地小劇場
右代表者代表取締役
鈴木富治郎
同
松田粂太郎
右訴訟代理人弁護士
佐伯静治
同
藤本正
同
村井正義
同
上村進
同
猿谷明
被告
森脇将光
被告
江戸橋商事株式会社
右代表者代表取締役
森脇将光
右両名訴訟代理人支配人
岸辰夫
同訴訟代理人弁護士
大島英一
主文
被告等は各自原告に対し、金六五、六九八、〇〇〇円及びこれに対する昭和三八年一月一八日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを四分し、その一を被告等の、その余を原告の各負担とする。
本判決第一項は仮に執行することができる。
事実
当事者双方の求める裁判及び事実上の主張は別紙記載のとおりである。
立証<省略>
理由
一、原告は昭和三一年七月九日東京地方裁判所において、被告江戸橋商事株式会社(以下被告会社と称する。)と(1)原告が被告会社に対し昭和三四年七月八日までに金二、〇〇〇万円を支払うときは被告会社は原告に対し東京都中央区築地二丁目二番地の一五、宅地三一七坪四合(以下本件土地と称する。)を賃貸引渡すこと、賃貸借の目的は堅固の建物所有、期間は六〇年、賃料は一ケ月坪二〇〇円とすること、(3)原告が約定の期日に金二、〇〇〇万円の支払を怠つたときは原告は本件土地を賃借する権利を失うこと、との趣旨の裁判上の和解をしたことは当事者間に争いがないところ、さらに、原告が昭和三四年七月八日東海銀行振出の金額二、〇〇〇万円の小切手を被告会社に持参して提供したが、その一旦提供した小切手を被告会社に交付することなく、そのまま持帰つたことも当事者間に争いがない。被告等はこれにより原告は本件土地を賃借する権利を失つたと抗弁するので判断するに、<証拠――省略>により前示和解においては被告会社が本件土地の所有権者であるとの前提の下に交渉が進められていたものであるが、登記簿上は訴外横井義信が所有者として登記されており、この点につき和解成立の際も、被告会社訴訟代理人は本件土地は実質上被告会社の所有であるので、原告が金二、〇〇〇万円を支払うときまでには、当然登記簿上の所有名義を回復して置く旨確言していたこと、が認められる。(被告森脇将光本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は措信しない。)右認定の事実と、被告会社が本件土地につき登記簿上の所有名義を回復しない場合は被告会社から賃借権の設定を受けても登記簿上所有者とされている者に対抗し得ない場合を生じ得ることと、考え合せれば、前示和解条項の解釈として、被告会社が約定の期日たる昭和三四年七月八日までに本件土地につき登記簿上の所有名義を回復したのにかかわらず、原告が金二、〇〇〇万円を支払うことなく期限を徒過したとき、はじめて原告は本件土地を賃借する権利を失うに至るというべきである。よつて被告等の抗弁は採用できず、原告は約定の期限経過後も金二、〇〇〇万円の提供の有無にかかわらずなお依然として被告会社に対し金二、〇〇〇万円を支払うことにより本件土地を賃借することをうべきであつた。
二、しかるに被告会社が昭和三五年八月五日本件土地を訴外日本電信電話公社に売渡し同日所有権移転登記手続を了したことは当事者間に争いがなく、右譲渡により原告は和解条項に基き本件土地を被告会社から有効に賃借することができなくなつた、と認められる。よつて被告会社は故意により原告をしてその有する本件土地を賃借しうる権利を失わせたものとして、原告に対し不法行為による損害賠償義務を負うものである。つぎに被告森脇将光が被告会社の代表取締役であつて前示和解についても、また原告が被告会社に対し金二、〇〇〇万円の小切手を提供した際にも終始被告会社の代表者として関与し、さらに本件土地を日本電信電話公社に譲渡するについても被告会社の代表者としてこれをなしたことはいずれも当事者間に争いがない。従つて被告森脇は原告に対し被告会社と同様の不法行為による損害賠償義務があるというべきである。
三、さて、被告等の不法行為の時期が昭和三五年八月五日であることは、前認定のとおりであり、これにより三年内である昭和三七年一二月二六日本訴が提起されたことは記録上明かである。従つて原告の主張する損害賠償請求権が時効によつて消滅したとの被告等の抗弁は採用できない。
四、そこで進んで本件土地を賃借することをうる権利を失わしめられたことにより原告の蒙つた損害につき判断するに前記和解において被告会社は原告に対し設定すべき本件土地賃借権の譲渡を一回限り承諾する旨約していたことは当事者間に争いがなく、右事実と鑑定人石川市太郎の鑑定の結果により認められる被告会社が本件土地を訴外公社に譲渡した日である昭和三五年八月五日当時の本件土地の、堅固の建物所有の目的、期間六〇年賃借権譲渡承認の特約ある賃借権の価格は金八五、六九八、〇〇〇円相当であつたことより考え、原告の蒙つた損害は右金額より原告の被告会社に支払うべかりし賃借権設定の対価二、〇〇〇万円を控除した金六五、六九八、〇〇〇と認めるのが相当である。
五、よつて被告等は各自原告に対し金六五、六九八、〇〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和三八年一月一八日から右完済に至るまで年五分の割合による損害金を支払う義務があり、原告の請求はこの限度で正当として認容し、その余は失当としてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九二条第八九条第九三条第一項を、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官吉岡進 裁判官荒木大任 龍岡稔)